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「――…ねこはいいなぁ」 猫のピンク色の鼻をふにふに押しながら、結衣(ゆい)は呟く。 肉球より絶妙な押し甲斐のある鼻を、なんとなくで弄ぶのは結衣の癖だった。 寛いでいる時に、人間の暇潰しで鼻を押されたり撫でられるのは、猫としてはいい迷惑だろう。 しかも愛撫されるのは決まって鼻だ。 猫が猫として確固たる人気を保つピンク色の肉球ではなく、小指ほどの面積しかなく弾力も手応えのない鼻だ。 肉球に興味を示さない人間が飼い主とは、猫としては、“猫の沽券”に関わるのではないか。 それでも逃げたり嫌がったり怒らない猫は、日和主義なのか長いものにはすすんで巻かれろ主義なのか、単純にどうでもいいから好きにさせているのか――… 上記のようにどうでもいい事をぐだぐだと、酒場で部下相手に愚痴を巻いて嫌われ続けるおっさんのように考えて、最後には何を考えていたのか忘れてしまうのが結衣の思考だった。 絶対に推理小説の主役は張れないだろう。 賢明聡明な方はここまで読む事もなく、戻るボタンを押しているだろう。 おっといけない、また話が脱線している。ナレーションからして脱線している。 愛猫の鼻から手を離して、結衣は深いため息をついた。
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