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手元にあるコップ酒を一気に煽り、公卿は藤堂を睨んだ。
公卿「京清……。
君と私は、かつて同じ夢を歩み、そして同じ理想のために軍人となった。
何故、今更、道を誤る?」
藤堂「義信。
この戦争は、最初から間違っていたんだ。
俺もお前も………、最初からな」
公卿は深いため息を付くと、腰の軍刀を掴みながら立ち上がり、藤堂を見下ろした
公卿「よかろう。
君と私は、最早、敵同士だ。
私と、私の部下は明日の御前会議を制圧、そして天皇を監禁。
その後、継戦の勅命を我々が出す。
最早、君と会うことすらないだろう」
藤堂「君と君の少数の部下で何ができる?
君らが継戦の勅命を出しても、我が海軍の考えは変わらぬ」
公卿「帝国軍人の精神を忘れた、腰抜け米内の言葉に惑わされた海軍に、我が帝国陸軍の精神は解らぬ。
この件は、梅津参謀総長、河辺中将閣下も承知している。
仮に失敗しても、事実上、降伏を口に出すだろう天皇の御前会議の妨害……つまり、継戦は達成できる。」
藤堂「例え、継戦が成功し、国体維持が確立できたとして、日本国民全員が死んだ日本に、なんの意味があると言うのだ!!?」
公卿「体は死しても、心は死なず。敗戦従属と言う屈辱を、受け、生き続けるという答えは、我が帝国陸軍軍人にはないのだよ。
さらばだ、我が友よ。
君の顔は、二度と見ることはあるまい」
それだけを言うと、公卿は静かに部屋を後にした。
去りし友の後ろ背に、藤堂は静かに語りかけた。
藤堂「公卿………。
今の日本は、今では変わらぬ。
新しき日本を創るためには、敗北しかないのだ…。」
藤堂は、静かに立ち上がり 去りし友の背中に向けて、敬礼をした。
その敬礼になんの意味が込められていたのか?
それは今でも判明しない。
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