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何処か遠く、いや近くから声が聞こえる。
「だから、桜の精だと言っているでしょうっ!!」
「いや、絶対雪女だっ!!」
「じゃあ何故桜から出てきたんですかっ!!」
「んな事俺が知るかっ!!とにかく絶対雪女だっ!!」
…話ている事は実にしょうもないが、聞き覚えのない声に、誰…?と思い娘は目を覚ました。
「んっ…」
話していた声は、娘が目を覚ましたのに気付き、目を向ける。
「…」
「…」
「…」
誰も何も言わないで暫く沈黙が続く。
すると艶のある漆黒の長い髪を頭の上で一つに結い上げ、眉間に皺を寄せ たまさに色男と表現するのに相応しい男が、少し困惑した黒い切れ長の目を、布団にいる娘に向けたまま、わざとらしく咳をし、
「え~…と…とっ、取り合えずお前は何者だ…?」
艶のある低い声で娘に尋ねる。
「うわ~…土方さん、幾ら急でも噛んだら駄目でしょ…」
第一印象は大事ですからね、とさっきまで土方と呼ばれた男と言い合いをしていたであろう色素の薄い、茶色の長い髪を結わずに背に流した美しい青年が口をはさむ。
二人がふただび言い合いを始め、娘はと言うと、居住まいを正し、少し乱れた服を正すと二人を見る。
視線を感じた二人は、ゴホンと咳をすると娘を見た。
「この度はお助け頂き有難うございました。私は狂咲桜葉と申します。失礼ながらここは何処でしょうか?」
礼儀の良さから育ちの良さを感じた二人は目を丸くし、顔を見合わせた。
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