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「クラーヌが、生きてる?」
少年の目に写る妹の姿。それは生きている状態とは到底思えない。しかし、その言葉は少年の壊れかけた心を歪ませるには充分だった。
「あぁ、生きている……」
その言葉に少年が表情を輝かせると、犯人は歪んだ笑みを少年に向ける。くぐもった笑い声が、口元から漏れていた。
「クラーヌ、クラーヌを助けなきゃ」
そう言葉を繰り返し少年が妹に手を伸ばした瞬間、犯人は少年の前に立ち塞がる。
「魔痕(シカトリス)を簡単に信用するとはな……これだからお前らは面白い」
犯人は少年の右手を勢いよく踏みつけた。苦痛に表情を歪め、少年が犯人を睨み付ける。
「離せ! 僕はクラーヌを助けるんだ」
右手を踏まれたまま、少年が叫ぶが犯人はそれを受け入れようとはしなかった。
「守れもしなかったクセに何を抜かす。大人しく見ていろ。此が我々(シカトリス)だ……!」
三日月の口から放たれる甲高い笑い声が、少年の耳にこびりついて離れない。一際強い風が窓から入り込み、犯人の髪を舞い上げる。
それに呼応するかのように、犯人の身体から黒い“何か”が伸び、妹を丸飲みにした。
黒い“何か”が犯人――其れの身体に戻った後、妹がいた場所には妹の姿は無い。
少年は一瞬の出来事に息をするのも忘れ、思考を巡らせる。
“何”が妹に“何”をしたのか、妹が“何処”にいったのか――とても理解が出来ない。
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