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「さて、私の食事はこれで終わりだ。ではまた会おうじゃないか……」
はっきりとした姿を捉えることが出来ない其れに、少年は強い憎悪を抱いていた。しかし、身体を巡る痛みに動くことができない。
「あぁ、そうだ。せっかく切り落としたんだ。君の腕ももらっておこうか」
そう無邪気に――というには語弊があるかも知れないが、少年には形が不明瞭である其れが一瞬子供のように見えたのだった。
荒い息を整えながら少年が其れを見ていると、其れは再び黒い“何か”を産み出す。次の瞬間、斬り離された少年の左腕は“何か”に呑み込まれ、消えてしまった。
「失った腕を見るたびに、私を思い出すといい。憎しみや怒りは私の糧になるのだから」
気づけば其れは少年の耳元でそう囁く。それほどまでに近くにいるのに少年には其れの顔をはっきりと確認することが出来ない。闇に飲まれているかのように、その顔は黒い靄に包まれていた。
「……私はオミエーラだ。私の名を忘れるなよ、少年」
少年の耳に残るのは鳴り止まない甲高い笑い声と風が吹き抜けるざわめき。少年は自分の無力さを思い知り、そのまま意識を手放した。
聞こえなくなっていく筈の笑い声が、やけに強く響いている。
随分前の記憶なのに、それが鮮明に焼き付いて消えない。少年が青年へと歳を重ねてもいつまでも彼は悪夢に苛まれ、少しずつ歪んでいく。
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