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それは確か放課後の教室で、隆良のピアノを聴いていた。
私も隆良も小学3年生だった。
「隆良 この曲なんていう曲?」
音楽室に響くぎこちないメロディーを聴きながらそう問いかけた。
「僕の一番好きな曲」
得意げにそう一言だけいう隆良。
「とっても素敵な曲…!」
言葉と一緒にため息が漏れた。
その曲はとてもキレイな曲で、聴いていると心が落ち着いてくるようだった。
その頃、クラシックのことなんかに疎かった私は、この曲がなんの曲なのかも全然わからなかった。
突然ピアノの音が鳴り止む。
「ねぇ...カノン」
音楽室には私の名前を呼ぶ隆良の声だけが響く。
「ん?そろそろ帰る?」
隆良が下を向いた。
とても悲しそうな顔をしていた。
「あのさ…僕、転校するんだ」
転校......?
耳を疑った。
でも私が聴いた言葉と隆良が言った言葉は間違ってはいなかった。
「…いつ?」
やだ――
「急なんだけど、あさっての土曜日に」
やだよ 隆良――
鳴り止まない鼓動。生まれる不安。
「…」
言葉なんて出なかった。
まだ信じられなかったから。
「みんなにはまだ知らせてないから…明日、言うつもりなんだ」
「…」
隆良が「ウソだよ」って言うのを待ってた。
「…カノン?」
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