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駅のホームで告白された。
自分たちと同じ車両でよく見かける男の子。
下校時には見かけなかったが、登校時はよくかぶっていた。
高校生になって、七ヶ月。そろそろ冬服にしようかな、なんて考えてる時だった。
「井田千尋さん、だよね」
小学校からの友人、相田瞳子と談笑しながら電車を待ってる時に話し掛けられた。
「はい、そうですけど?」
「やっぱり。俺、坂下有。憶えてない?」
言われた名前は記憶になく、千尋は首を捻る。
有は少し残念な顔をして、『話があるんだけど』と切り出した。
「私、あっちにいるね」
瞳子が気を遣って離れる。
まさか、このシチュエーションは…と、少しドキドキしながら有を見やると、有は少し緊張した顔で口を開いた。
「しばらく同じ保育園に通ってて、ちーちゃんからは『有くん』て呼ばれて……」
「ファーストキスの有くん?!」
『有くん』のキーワードに千尋は驚いた声を上げた。
途端、有の表情は明るくなる。
「憶えててくれたんだ?」
「私は憶えてないんだけど、うちの兄が何かにつけそれを言うものだから」
申し訳なさそうに言うと、明らかにがっかりした表情を見せ、有は続けた。
「そうだよね、三歳だったし…。で、俺、この電車乗るようになって、ちーちゃん見つけて、でも半信半疑だったからいつも見てたら………いつの間にか、好きになってました。良かったら付き合ってください」
照れてるのか、有は千尋を見ずに斜め下を見ながら言い切った。
千尋は生まれて初めて、否三歳の時にされてるので、人生二度目の告白にドキドキしていた。
「返事は明日でいいから、考えてみて」
もうすぐ電車が来るというアナウンスに気付き、有は立ち去る。
とは言えいつも同じ車両だから、数歩離れただけだったのだが。
電車がホーム入ってくる寸前、瞳子が千尋の腕に巻き付いてきた。
「学校ついたら聞かせてもらうからね」
二人の間に秘密はない。
まだ、本人にもしていない返事まで聞かれるんだろうなぁ、と千尋は苦笑した。
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