出会い

3/5
9628人が本棚に入れています
本棚に追加
/731ページ
なんだかんだ言って自分は妹に甘い。 若干9歳にして智樹は悟っていた。 結局千尋が気になって、一時間ほどで友人と別れ、帰ってきたのだ。 「いいのか、隆行」 隣りを歩く、友人の景山隆行に、他の友人と別れてから幾度となく紡いだセリフを吐いた。 「いいよ。何回同じこと言わせる気?」 言葉は溜息まじりだが、その瞳は微笑んでいた。 「悪いな」 へへ、と智樹も笑うと、二人は千尋の待つ自宅へと急いだ。 玄関を開けると、マットの上にまんじゅう…否、丸くなって寝ている千尋がいた。 「こんなとこで寝てるの?」 少し驚きつつ、隆行は千尋を覗き見る。 閉じられた瞳。まつ毛は濡れていて、少し前まで泣いていたのが分かる。 「いつもだよ。俺が出てくと、帰るまでここ動かないんだ」 鬱陶しそうな声に、若干好かれる喜びが交じっているのに隆行は気付いた。 「学校行ってる間も?」 ふと気になって問う。 「ランドセル背負った時はダメだって分かってるみたい」 そう答えながら智樹は、靴を脱ぎ、千尋を抱きあげた。 「…ともたん?」 「ただいま、ちー」 「おかえいなさーい」 泣き疲れたのか少し擦れた声で、嬉しそうに、安心した顔で智樹を抱き返す千尋に、隆行は微笑む。 二人は二階の智樹の部屋に入ると、部屋の中心にあるテーブルを挟んで、ラグの上に座った。 部屋は小学生の男の子らしく、青と白を基調としたカーテンや寝具、インテリアですっきり納まっている。 が、隆行はあちらこちらに智樹らしくないものを見つけて苦笑した。 「分かってると思うけど、俺のじゃないぞ」 冗談めかしてじろっとひと睨みすると、智樹は千尋のやわらかそうな頭を一撫でした。 「うちの母親、翻訳家なんだ。だから仕事のある時は子守り担当」 智樹はクラスでも明るくていわゆるムードメーカー的存在だ。 だけど、隆行は知っている。どちらかと言うと低学年の子達に人気なこと。アレコレと世話を焼いてあげていることを。 「分かってるよ。まあ、智樹がぬいぐるみ好きだとしても構わないよ、友達だから。…多少引くけど」 「隆行っ」 小さく笑う隆行に智樹はつっこんだ。そんな智樹に笑いは止まらない。 「たゆち?」 その一言に目を向けると、丸く大きな瞳が、きょとんと隆行を見つめていた。 ―――…可愛い あまり、幼い子どもに関わる機会のなかった隆行は、案外子供好きなのかも、と自己分析した。 .
/731ページ

最初のコメントを投稿しよう!