初恋

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「ちー。これやる」 おもむろにポケットから出された小さな箱に、千尋は小首を傾げる。 「クリスマスプレゼントだよ」 言うと破顔して受け取り、早速包みを開けだした。 中から小さなボトルが現われた。 薄いピンクの硝子でできたボトルに透明の液体が入っている。 よく見ると、表面に『chihiro』と崩れた筆記体で透かし彫りが施されていた。 「智くん、これベルジュのだよ?」 言われ、智樹はギョッとした。 箱には『sable de Bellege』(セーブル ド ベルジュ)と書かれている。 世界でも有名なセレブ御用達のブランドで、言うならばとても高価だ。 ―――あいつ。妹へのクリスマスプレゼントにしちゃ高すぎるだろ 智樹は、なんて説明しようか、言葉を探す。 「……ボーナスが良かったから今回は特別な?」 上手い言い訳が見つかりホッとする。 後で隆行に文句の電話を入れよう、と智樹は思ったが、ボトルを手に呆然とする千尋の隣で有が悔しそうな顔をしているのを見つけ、智樹の流咽は下がった。 ――お前じゃ無理だよな 智樹はほくそ笑み、残りのコーヒーを飲み干した。 「智くん、ありがとう」 何も知らない千尋の笑顔に智樹は苦笑した。 ―――俺からじゃないんだけどね キラキラした瞳で嬉しそうな千尋を、隆行も見たかっただろうに、と智樹は思う。 その後、部屋に戻った智樹は、千尋あてのプレゼントの箱から『HAPPY CHRISTMAS』と書かれたカードを抜き取ると、クシャっと丸めてごみ箱に放った。 ―――これは誕生日に回すか クローゼットの奥にしまわれた箱は、半年後、本人の手に渡る事となる。 .
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