初恋

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智樹がホテルを出た後、隆行は部屋の広さからするとやや大きめのソファーに座り、サイドテーブルに置いてあった煙草に手を伸ばした。 ゆっくりと肺に紫煙をくゆらせる。 『会わないのか』 シャワーからあがって言った智樹の言葉を思い出す。 智樹には、ああ言ったが本当は時間はあった。 母の実家に呼ばれている事は本当だ。 そこに嘘はない。 ただ、黙っていただけ。 ふーっと大きく煙を吐くと、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。 ―――何から手を付けようか 思案し、隆行は口元に弧を描く。 「鳶に油揚げとは、言ったものだね」 そう一人語ちると、テーブルあった眼鏡をかけ、立ち上がる。 ジャケットを羽織り、黒のロングコートを身に纏うと、スーツケースを手に部屋を後にした。 ―――時間はたっぷりある でも、 ―――今はまだ、会わない フロントに向かう隆行の眼は、智樹すら見たことのない、策略家のそれだった。 .
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