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「ねぇ、智くん。私、どうしたらいいと思う?」
テーブルに頬杖をつき、問う千尋からは隆行からプレゼントされたトワレの香り。
「智くんはお勉強するのが一番いーと思います」
にっこり微笑んだ甘いフェイスには微かな青筋。
「っつーか、人が教えてやってんだから、集中しろ」
慌てて開いた問題集に目を向けるが、千尋が違うことを考えていることは、目に見えて分かる。
「あのねぇ、ちーさん。せっかく俺がデートもせずにあなたのお勉強に付き合ってあげてるんだから、僕としては集中して欲しいわけ」
「え?智くん彼女いるの?!」
「………いないけど」
井田智樹、23歳。遊ぶ女には事欠かないが、特定の彼女は現在不在。
「なんだ。やっぱりね」
ホッと息を吐く千尋に小さく笑む。
何だかんだ言って千尋もブラコンなのだ。
「やっぱりとは何だよ」
その手に持つテキストを丸めると、智樹は千尋の頭をそれでポンと叩いた。
「で、何がどうしたらいい何だよ」
妹に甘い智樹はお勉強を諦めて、相談に乗ってやる。
元々、なぜ智樹が千尋の家庭教師もどきをさせられるはめになったかと言うと、年度末のテストの結果のせいであった。
千尋は有と付き合うようになってからというもの、休日はデート。
平日は遅くまで放課後デート。
毎日毎日、時間という時間を有に費やし、学生の本分をわきまえなかった結果、成績ががた落ちした。
つまりは色ぼけ。
そのため、智樹は母美智子から、家庭教師という役目を仰せ遣ったのである。
「有くん。生徒会に入るんだって」
有の通う藤星高校は公立校ながらそこそこ賢い。
生徒会役員はその中でも成績上位の者しかなれず、生徒会に入った者は、進学時、学校からの推薦が優先的に受けられる。
だが、その分忙しい。
生徒会活動に、成績の維持。
下がってしまうと役員を外される。だから学業と両立できる者しか生徒会には入れないのだ。
つまりは坂下有は優秀だということ。
「生徒会に入っても陸上部は続けるんだって。
そしたら、朝も早く行かなくちゃいけなくて、帰りももっと遅くなるから、朝のデートはなくなるし、帰りも待ってちゃいけないって、有くんは言うんだよ」
言ってて千尋の視界はぼやけだす。
「智くん、私我慢しなきゃいけないんだよね」
淋しい、と呟くと千尋はテーブルに突っ伏した。
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