「ヤンキー娘は迷路が苦手」

2/12
前へ
/12ページ
次へ
「あの園田さんに声かけられるなんて、佐々木君すごいわね。」 そんな声が廊下まで響いていた。 (ちっ、私に声かけて英雄扱いかよ。まるで悪人だな・・・。) 園田佐織はいわゆる不良だった。茶髪で目つきが悪い。他の生徒からはなぜ高校に入れたのか疑問に思われるような生徒で、たまに他校の生徒と問題を起こしている噂もある。 佐々木優之介は目立たない少年だった。普段からボーっとしていて、一人で本を読んでいることが多い。勉強はできるが、運動は苦手な生徒である。 学校ではお互い話すこともない二人が出会ったのは、雨が降る放課後だった。 「今日はあまり面白そうな本がなかったですねぇ。」 ポツリとそう呟くと、買い物袋を見つめる。今は雨に濡れないよう、しっかりと口を閉じているので中身は見えない。裏表紙の紹介文に釣られて買ってみたけど面白いのか・・・。 そんな事を考えていると、建物の入り口に雨を避けるように丸まっている人影が見えた。 「あれ?園田さん・・・ですか?」 その声にビクッと体が動くと、顔がゆっくりとこっちを向いた。 「ケガしてるじゃないですか、どうしたんです!?」 制服のまま、ひざを抱えて座る園田の顔は一部腫れて、血が出ているところも見えた。 「なんでもねぇよ。」 「こんなに濡れてしまってはカゼをひきますよ。」 「関係ねえだろ。ほっといてくれ。」 「ほっておけるわけないじゃないですか、ホラ、肩を貸して下さい。」 「やめろ、お前まで濡れちまうぞ。」 「いいんですよ、僕は。このままではカゼをひきますし、なにより手当てしないと。とりあえず、僕の家に行きましょう。」 「家?どこなんだ?」 「すぐ後ろのアパートですよ。」 「アパートって言うか、マンションじゃねえか。お前、スゴいところに住んでんだな。」 さぁ、と手を伸ばし、担ぐように体を支える。園田の速度に合わせてゆっくりと歩きエレベーターに乗り込んだ。佐々木の部屋は3階にある。 エレベーターが上っていく中、体を支えられながら、園田は佐々木に思ったより力があることに驚いていた。いっつも本ばかり読んで、メガネをかけてて、弱そうだ。そんな印象しかなかったのだが・・・。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加