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そのまま、ニニコはしゅんとこうべを垂れる。
それに対して、ナミイチはさらにさらにしかめっ面をした。
彼女を悲しませたいわけじゃない。ただ、いつものようについ捻くれた返事をしてしまっただけで…。
ナミイチは、ニニコの持っていた袋を奪い取る。
「あ…」
ナミイチは、お菓子はあまり好きではない。甘いものが苦手だからだ。
でもニニコが作ったのなら…。
そう思いながらナミイチは乱暴に袋を開けて、中のお菓子を一つ、口に放り込んだ。
その行動に驚きながらも、ニニコはナミイチを期待に満ちた目で見つめている。
どうやら感想が欲しいらしい。
そう思ったナミイチは、ポツリと独り言のように呟いた。
「甘すぎる」
「う…ご、ごめんなさい」
「でも…美味いよ」
ナミイチが、無表情でまたポツリと言いながら、お菓子を食べる。
それを見たニニコは、嬉しそうに笑った。
その笑顔に、ナミイチは自分の心臓の音が響く感覚を覚える。
「…」
「ナミちゃん、どうかした?」
「何でもない。…行くぞ」
「へ?」
なり続ける心臓を無視して、ナミイチはニニコに向かって右手を突き付けた。
急に差し出された手に、彼女は首を傾げる。
「送ってく」
「え、いいの?」
「いいも何も、お前は一応脱走者だ。連行するんだよ」
「あ…なるほど」
本当はそれだけじゃない。ナミイチはニニコが心配なのだ。
昼間でさえ危険な奴隷地域の夜間なんて、彼女1人で歩かせたくないのが本音。連行なんてただの建前だ。
「お前、周り見えてないだろ」
「うん」
「転ばれたら迷惑だからな」
そう差し出された手を取って、ニニコはまた嬉しそうに笑う。
何がそんなに嬉しいのかナミイチにはわからないが、彼女が笑顔ならそれでいいと思った。
「ナミちゃん」
「何だ?」
「あのね、手ってすっごいんだよ?」
「は?」
突然何を言いだすんだと、ナミイチはまた顔をしかめる。
まぁ、彼はたいてい無表情かしかめっ面しかしないが…。
ニニコはそんな彼の事を気にせずに、繋いだ手を振り回しながら続ける。
「こうやって手を繋いだだけで、心まで温かくなるの」
「あぁ」
「でね?すごく幸せな気分になれるんだよ」
「そうか」
ナミイチは曖昧に返事をする。
彼は【幸せ】がどういうものなのか知らない。
だから、手が温かいのが感覚として伝わっても【心】に温かいのは伝わらない。
そもそも、伝わる【心】がないのだ。
ましてや【幸せ】などわかるはずもない。
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