5人が本棚に入れています
本棚に追加
奴隷地域にある学校で、それなりの知識を教え込まれたナミイチは頭が良い。
しかし、【幸せ】についてなんて学校では教えてくれなかった。
当たり前だ。
奴隷地域にそんな単語は似合わないし、そんなものはないはずなのだから。
まぁ、それなりの自由を与えられ、役目さえこなしていれば何不自由なく暮らせる場所だが。
それでも【幸せ】を知る人は少ない。
それが何なのか、どんな形なのか…。
学校で習うものではない。ナミイチには、習ったことしかわからなかった。
「ナミちゃんは幸せ?」
「…さぁな」
「そっか、ちょっと残念」
ニニコは、寂しそうに笑う。
嘘でも幸せだと言っていれば、彼女は救われたんだろうか。
とナミイチは少し後悔した。
ニニコの手は、ナミイチの手よりも小さい。
ナミイチは、色々な要因があって成長が遅い。
年齢の割に若い姿のせいでよく馬鹿にされたものだ。
そんなナミイチの手でさえも、さすがにニニコよりは大きい。ついでに、ニニコの手は柔らかい。
「私、ナミちゃんの手、好きだよ」
「…へぇ」
こんな人殺しの道具のどこがいいのか、ナミイチは疑問に思った。
彼は、自分を人を殺すための武器にしか過ぎないと考えていたし、それが当たり前だと思っている。
いくらなんでも、自分の手が好きだとは思えないのだ。
「物好きだな」
「だって、ナミちゃんの手は温かいもん」
「へぇ」
「それに…いつも私に元気をくれるの」
「そうか?」
「うん」
ナミイチにそんなつもりは全くもってない。
ニニコは本当に物好きだな。とナミイチは頭の中で反復した。
「お前の手は冷たい」
「もう、冬だもん」
「そうか」
「私の手、すぐ冷えちゃうの。だから、ナミちゃんが羨ましいな」
「馬鹿言うな」
ナミイチは、ニニコには自分のような手を持ってもらいたくないと思った。
いくら温かくったって、中身は冷たく凍っているような…そんな手なのだから。
「お前はお前でいいんだよ」
「そっか、そうだよね」
「あぁ」
どう納得したかわからないが、ニニコは大きく頷いている。
特に何か大事なことを言った覚えはない。
ナミイチは、ニニコがそんな反応をするとは思っていなかった。
「ふふふ~」
「…」
「ふふ~ん」
「うるさい」
「ぶー」
こいつ…自分の立場わかってるのか?
とナミイチは大きくため息をついた。
ナミイチは、本当にニニコといると調子が狂う。
いつもの調子では彼女には通用しないのだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!