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「迎撃を……」
私は迫る氷柱に対し、迎撃魔法を詠唱しようとするが、スペルが唱えられなかった。
体の芯が寒い。マズイ、先程の魔符の影響で想定外に体力を消費していたらしい。一度体の異常を意識してしまえばそれまでだった。
次々と震えが襲ってくる。歯の根が咬み合わない。指先の感覚が麻痺する。これではスペルを唱えるどころではない。滞空するのにも精一杯だ。
だけれど氷精の攻撃はそんな私の都合を加味するわけもなく――――。
「ちいッ!」
体を捻り、次々と迫り来る氷柱の群れを回避する。
だがそれだけだ。反撃へと転じる余力など私には残されていない。
無理に詠唱を行えばその時点で私は意識を失うだろう。
なんとか距離を取り、時間を稼げれば体力を回復させる手段もあるのだけれど。
「どうする?」
答えなど出るはずもない。
体の節々に走る鋭い痛みは、先程の氷柱がカスった為だろう。悪いことは重なるもので、既に視界の半分は暗黒に閉ざされていた。
これでは意識を失うのも時間の問題か。
「逃げてばっかりじゃ、勝てないんだからね」
氷精の冷気が形を変える。
マズイ、マズイ。
だが今の私では回避する手段も、迎撃する手段も手元には存在しない。
暖かい紅茶でも飲めば逆転の一手を思いつくのかもしれないが、そんなものは非現実的もいいところだ。
「雪符 ダイアモンドブリザード!」
吹きすさぶ嵐。
季節は180度転換し、真冬がこの湖に現れる。
生命を閉じ込める真冬の嵐。一個の矮小な生命が、この大自然の猛威に抗うすべなど存在するのか。
湖全域を覆う寒氷の猛威は、当然私に最後の一撃を与える。
「参ったぜ」
ここで私の意識は暗黒に閉ざされる。
五感全ての感覚を喪失し、私は冷たい湖の中へと落ちて行った。
「やっぱりアタイったら最強ね!」
何故か聴覚だけは残っていたらしく、氷精のそんな勝利の宣言が聞こえてきたのは、大きく納得がいかなかった。
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