二章 霧雨魔理沙[Ⅰ]

4/4
前へ
/19ページ
次へ
「迎撃を……」  私は迫る氷柱に対し、迎撃魔法を詠唱しようとするが、スペルが唱えられなかった。  体の芯が寒い。マズイ、先程の魔符の影響で想定外に体力を消費していたらしい。一度体の異常を意識してしまえばそれまでだった。  次々と震えが襲ってくる。歯の根が咬み合わない。指先の感覚が麻痺する。これではスペルを唱えるどころではない。滞空するのにも精一杯だ。  だけれど氷精の攻撃はそんな私の都合を加味するわけもなく――――。 「ちいッ!」  体を捻り、次々と迫り来る氷柱の群れを回避する。  だがそれだけだ。反撃へと転じる余力など私には残されていない。  無理に詠唱を行えばその時点で私は意識を失うだろう。  なんとか距離を取り、時間を稼げれば体力を回復させる手段もあるのだけれど。 「どうする?」  答えなど出るはずもない。  体の節々に走る鋭い痛みは、先程の氷柱がカスった為だろう。悪いことは重なるもので、既に視界の半分は暗黒に閉ざされていた。  これでは意識を失うのも時間の問題か。   「逃げてばっかりじゃ、勝てないんだからね」  氷精の冷気が形を変える。  マズイ、マズイ。  だが今の私では回避する手段も、迎撃する手段も手元には存在しない。  暖かい紅茶でも飲めば逆転の一手を思いつくのかもしれないが、そんなものは非現実的もいいところだ。   「雪符 ダイアモンドブリザード!」    吹きすさぶ嵐。   季節は180度転換し、真冬がこの湖に現れる。  生命を閉じ込める真冬の嵐。一個の矮小な生命が、この大自然の猛威に抗うすべなど存在するのか。  湖全域を覆う寒氷の猛威は、当然私に最後の一撃を与える。 「参ったぜ」    ここで私の意識は暗黒に閉ざされる。  五感全ての感覚を喪失し、私は冷たい湖の中へと落ちて行った。 「やっぱりアタイったら最強ね!」  何故か聴覚だけは残っていたらしく、氷精のそんな勝利の宣言が聞こえてきたのは、大きく納得がいかなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加