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漂着者への応対をパチュリー様と美鈴に任せ、私はお嬢様へと報告に向かっていた。
紅一色の長い廊下を進む。私の主であるお嬢様は紅が好きだった。いや……好き、とは少し違うかもしれない。あれは固執と言っても良いほどだ。
それに今回の件、正直やり過ぎではないかという感じも無くはない。お嬢様が日光を毛嫌いしているのは分かるが、なにも幻想郷全域をこのような霧で覆う必要があったのだろうか。
しかもあのような労力を用いて。
パチュリー様の協力があったとは言え、お嬢様は霧を撒いた後三日も寝込まれたのだ。
常のお嬢様らしくない必死さ。その裏に私は、あの御方の脆さを垣間見た気がした。お嬢様の脆さ、お嬢様の不完全さ。
それが何を端に発しているのか、おおよその想像はできるが、私は思考をそこで停止させた。主への詮索は従者として恥じるべき行為だ。
「失礼します」
長い階段を上り重々しい扉を開く。
主の自室。ノックに対する返答は無かったが、気配で室内にいるのは分かっていたので、ノブを回して室内へ礼を尽くして踏み入る。
窓より空を眺めていたのは永遠に幼き赤き月。私が絶対の忠誠を誓う主。
「お嬢様」
私の言葉に彼女は反応を示さない。
意図的に無視しているだけなのか、それともただ単に聞こえていないだけなのか。
私は黙して主の反応を待つ。気が向けばこちらへ意識を向けるだろうし、室内への侵入者へ気がつかぬお嬢様でもないだろう。
時間にして42秒と3/2。お嬢様の真っ赤な、まるで泣きはらしたかのような瞳が私へと向けられた。五百余年の時の流れを見てきた瞳に浮かぶのは、はたしてどの様な感情なのだろうか。
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