三章 博麗霊夢[Ⅱ]

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 門番の選択は結界の破壊。彼女は結界へと、軽く拳を触れる。  舐められたものだとその選択を嘲笑いながら、私はスペルカードを取り出して封魔陣の展開を開始した。  だが――――。  直感は告げる。逃げろと。この紅い庭の空気が変わっている。  大地が脈動しているように感じる。  このまま封魔陣を展開すればこちらの勝利は確実だ。封魔陣の一撃で勝負は決する。   みすみす勝機を逃すのか?  だが私が相手にしているの何なのだろうかと、一瞬考えてしまった。馬鹿な、ただの妖怪じゃないか。  だけれど鼻をつくのは、何の香りだ? 「地を這う蜥蜴、水を得て昇竜となる」  堪え難い獣の香りがする。  逃げたい。だが今更引くわけには行かない。すでに封魔陣は発動し始めている。あと一秒で勝負は決するのだ。  一秒で博麗の結界が破られるはずがない。 「封魔陣ッ!!」 「是即背水之陣」  生暖かい風が私の心臓を撫でる。恐慌に陥りそうになる。  だけれど耐える。目の前の恐怖に耐え、勝利を手にする。  瞬きの間のはずなのに、数時間にも感じられた刹那の後、幾何学模様が庭を覆う。  封魔陣が発動する。あらゆる歪みを是正し、あるべき場所へと全てを戻す術式。   「――――ッ!」  先程までの恐怖は消え去る。心臓を握られていたような感覚は消え去り、結界に絡め取られる門番が目の前に居るだけ。
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