一章 博麗霊夢[Ⅰ]

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 私に関わらないことであればいいのだ。私の知らないところで、知らないように世界を変革するのであれば、私は一向に構わない。お隣さんの夕食だとか、何組の誰々とあの子が好き合っているらしいとか、そんなことであればいくらでも構わない。  だけれど明らかな異常が発生していて、それに私が気が付いてしまったら。私の気に入っている日常が誰かの願望によって変化を遂げてしまうのなら、私はそれを全力で否定するだろう。  空を見上げてみるといい。真紅(まっか)な空だ。  夏だというのに冷ややかな空気がこの幻想郷を包んでいる。夏の嫌らしいほどにギラついている日差しはこの紅い霧に遮られて地上に届くことはない。  夏が涼しいのは良いことなのかもしれない。だがそれは“人間にとって都合の”良いことだ。生憎幻想郷には人間以外にも多種多様の種族が存在していて、夏が暑くなければ生死に関わる種だっているかもしれない。それに人間の中でも夏が涼しくては困る農家さんだっている。  それに私は、この空を覆う紅の色が好きではなかった。リンゴやトマトのような生命力の溢れる赤と、空を覆う紅は違う。この空は錆び付いた紅。  灼熱に打たれた鉄が錆び付き、朽ちてゆく過程の紅。  正常ではない。どこかがネジれて、狂って、壊れてしまった色のように私は思う。  だからきっと、こんな色の空は良くないし、こんな目に悪い色の空では縁側で茶をすすってもイマイチ風情がない。   「はぁ……」    気怠げに重い腰を上げて、私は針や札を何処へ仕舞っただろうかとタンスへ手をかけた。
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