生なんて

5/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
それにねと千春は笑みを深くする。 「――お兄ちゃんが泣き叫びながら犯されてる様、あたしも大好きなんだもん」 ……絶望とは、このことを言うのか。 俺は崩れ落ちるように座り込みながら、顔から血の気が引いて行くのが分かった。 守ろうとしていた妹は、そもそも俺の味方ではなかった。 心のよりどころとしていた妹を守るという行為は、意味のないものだった。 これが、絶望以外の何になる。 「……う……そだ……」 声が掠れる。更に出している声は平坦で、自分のものとは思えない。 父さんは、そんな俺にのしかかって来て、俺の服を脱がせる。 「嘘だ!嘘だと言ってくれよ!千春!千春ー!!」 千春に向かって手を伸ばすと、千春は俺の指に自分の指を絡めた。 「あは。やっぱりお兄ちゃんは、泣き叫んでる顔が1番綺麗だね」 俺の瞼にキスすると、千春は革の鞄から黒い財布を取り出し、1万円札を4枚抜いた。 そして、それきり俺に話しかけることはなく、出て行った。 ……俺は今まで、何をしてたんだ? 父さんに凌辱されながら、俺は頭の隅でぼんやり考える。 思考と肉体が切り離されたその世界での思考は、何処までも冷静だ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!