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すると少女はその帽子を脱ぎ、両手で、力強く握り締めた。
その肩は震えていて、放って置けないと感じたらしい夢の中の俺は、どうやら話し掛けた"ようだ"。
口が動く感覚はするが、音が聞こえない。
少女は話し掛けられたことに驚いたようで、その赤く腫れた目を隠すことなく、両目で俺を捉えた。
その表情は困惑一色だったが、すぐに平静を取り戻した。
そこからしばらく、少女の口が動き、それに応えるように俺の口が動くというやりとりが繰り返された。
十分ほどだろうか。
気が付くと、同じ海岸ではあるものの、何故か、いつの間にか、波打ち際にいた。
ずぶ濡れで。
少女は泣きじゃくっていて、何がなんだかよくわからない。
俺は何かを口走っている。
少女は顔を上げ、目を見開き、すぐに笑った。
涙を流しながら。
俺は、きっと、この言葉に導かれたのだろう。
夢から覚める直前。
きっと、この言葉がスイッチ。
俺は―――
「うん!絶対、絶対大切にする!」
この無音の夢で、唯一届いた言葉。
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