雨の日、心の在処

19/24
241人が本棚に入れています
本棚に追加
/271ページ
すると少女はその帽子を脱ぎ、両手で、力強く握り締めた。 その肩は震えていて、放って置けないと感じたらしい夢の中の俺は、どうやら話し掛けた"ようだ"。 口が動く感覚はするが、音が聞こえない。 少女は話し掛けられたことに驚いたようで、その赤く腫れた目を隠すことなく、両目で俺を捉えた。 その表情は困惑一色だったが、すぐに平静を取り戻した。 そこからしばらく、少女の口が動き、それに応えるように俺の口が動くというやりとりが繰り返された。 十分ほどだろうか。 気が付くと、同じ海岸ではあるものの、何故か、いつの間にか、波打ち際にいた。 ずぶ濡れで。 少女は泣きじゃくっていて、何がなんだかよくわからない。 俺は何かを口走っている。 少女は顔を上げ、目を見開き、すぐに笑った。 涙を流しながら。 俺は、きっと、この言葉に導かれたのだろう。 夢から覚める直前。 きっと、この言葉がスイッチ。 俺は――― 「うん!絶対、絶対大切にする!」 この無音の夢で、唯一届いた言葉。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!