第1章

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王子は船長にうながされ、部屋に戻って行った。 「引き返す準備を今しているから、もうすぐ帰れるよ。」 舵がきかないと伝えるのは、女を不安にさせるだけだと思い、安心させる為にそれだけ伝えた。 女も陸に戻れると聞き、安心したのか、先程起きた事が無かった様に、再び王子といちゃつき始めた。 しばらくして、王子の耳に微かに歌声が聞こえた。 「あれ…?なんだろう? 聞いた事がない声だ。 君、今、歌声が聞こえなかった?」 王子は女に聞いた。 女は首を横に振り、王子に尋ねた。 「えっ?歌声? 気がつきませんでしたわ。 どの様な声でしたの?」 「どの様な…か。 そうだなぁ…例えるなら…この世とは思えない様な…。 とても美しい歌声だったなぁ。 天使の歌声だったのかな?」 王子が少しウットリと思い出す姿を見た女はムッと嫉妬し、王子に言った。 「まぁ、そんなにも美しい声でしたの? 王子様が私よりも心惹かれる程の声だったんですの?」 睨みつける様に見つめる女に、王子はハッと我に返り、女をなだめた。 「いや、そんな事はないさ。 もしかしたら空耳だったかもしれない。 今はもう聞こえないし…。 それに、僕は君以外のモノに惹かれる事はないよ。」 だか、又しばらくすると歌声が聞こえ始めた。 先程よりもはっきりと。 「セイレーンだ!」 船員が叫んだと同時に船は左右に大きく揺れ動く。
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