第1章

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「この女さえ…この女さえいなければ…。 人魚姫が泡になって消える事もなかったのに……。」 完全に命が尽きたのを確認した人魚達は、荒れ狂う波に女を離し、漂わせた。 数週間後、女は、皮肉にも、王子を発見した海岸で、船の残骸と共に、皮膚が削がれ、衣類がボロボロになり、顔が判断出来ない程、腐乱して発見された。 女が人魚達に海で引きずり回され、海の中でもがき苦しんでいる頃、王子は、一緒に投げ飛ばされた積み荷にしがみつき、波を漂っていた。 「あの時と…あの嵐の時と同じだ…。 あの時も、辺りが真っ暗になって、空も海も荒れ狂って…。 それで僕は様子を見る為に外に出たけれども、雨風が強くて…。 次第に波が船を壊して…。」 ブツブツとつぶやきながら、王子は今の状況と以前体験した状況を照らし合わす様に思い出していた。 「それで…、僕は今みたいに海に投げ出されて…やっとの思いで近くの積み荷につかまって……。 だんだん意識が遠くなって……。 そして耳元で女性の声が聞こえてきて…。 女性が心配そうに僕に声を…。」 「その子の顔は覚えてる?」 突如、背後からの声に、王子は身構えた。 そこには、人魚達が王子を睨みつける様にしていた。 「ねぇ、その子の顔は覚えてるの?」 突如現れた人魚達に驚きながらも、王子は人魚達の質問に答えた。
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