いきさつ

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茉莉はもともと男遊びが激しかった。 見た目は真面目でおとなしそうに見られがちだが、甘い言葉に弱いのかほだされやすいのか、あるいはいっそ性にだらしがないのかもしれない。 そんな茉莉が結婚したのは22歳の時だった。今からもう12年前。干支が一回りもしていると思うと随分と時間が経ったような気がする。 相手はいいところのお坊ちゃんで菅原賢司と言った。2つ年上の国家公務員。玉の輿というやつだ。 あの盛大な結婚式を挙げた時、茉莉のお腹には既に命が宿っていた。 茉莉は当時他に付き合っている男が3人いた。どうしてバレないのか不思議でならないのだが、茉莉は常に複数の男と交際している。 結婚、出産してからも茉莉の浮気癖は治らなかった。長く続いた男も居たし、すぐに別れた男も居た。 一男一女をもうけた茉莉だが、無論、それぞれの父親が本当は誰だかなんて茉莉自身もわからないようだった。 奔放な茉莉の男性遍歴を事細かに知っているのは、私だけだった筈だ。 夫や男たちは気づいていない様子だったし、子ども達の血液型や顔つきが問題になるようなことも幸いなことに無かった。 傍目からは茉莉たち夫婦は順調で穏やかな夫婦に見えたはずだ。 だから12年も何食わぬ顔で夫婦で居られたのだ。 きっかけは長男の晴哉くんが茉莉の浮気を見つけたことだった。 学校帰りの晴哉くんは遠くにママを見つけ、駆け寄ろうとしたところ、運転席に居た男が降りてきて茉莉の腰を抱いた。茉莉も自然な様子で受け入れ、2人は自然食品の店へ入って行った。 晴哉くんはそれをきっかけに登校拒否児になり、心配した賢司が休みの度にカウンセリングに連れて行った。茉莉が連れていこうとしても、賢司の言うことしか聞かないのだ。 茉莉は晴哉くんに浮気現場を見られていたことを知らなかった。学校でいじめにでもあったのかしらと考えていたくらいだった。 何度かのカウンセリングののち、晴哉くんは重い口を開いた。 茉莉に対する不信感、茉莉の浮気を見てしまった衝撃、大好きな母親が自分だけのものじゃなくなった気がした喪失感。 付き添いの賢司は驚愕し、カウンセリングが終わったあと晴哉にもう一度詳しいことを聞き出そうとした。 しかし晴哉くんはただ声を上げて泣くばかりで詳しく語ろうとはしなかった。
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