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不安を募らせた深いため息の後、君のあんなにも美しかった顔を染めてしまっている赤黒く光る血を拭き取ろうと、君の頬に触れるが、やはり君の肌はとても冷たかった。
血を拭き取ったさきに見えたもののせいで、何かを抑え込んでいた、目の力が弱くなってしまう。
「どうして……」
俯き問う俺に君は言う。
「言えないよ……セイトになら尚更のこと。言えるはずがないよ」
言葉を発しないまま、俺は君の頬をそっと撫でた。
自分自身に対して何故と思うことは他にもあった。君という大切な存在が消えてしまうかもしれないというのに、悲しいとか怒りだとか、そういった感情がどうしても湧き上がってこないのだ。
それとは別に湧き上がったこの感情。俺はかつてどこかの場所でこの感情を味わったことがあった。
しかし、それがどこなのかどうしてその感情が湧き上がったのか、それを思い出させるものは、すでに俺の脳内から消え去っていた。
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