プロローグ

7/10
前へ
/21ページ
次へ
ただ、どこか呆然とした気分を意識の片隅に感じながら、夜空を見上げた。 「すげーな、月の色がいつもと違って青いよ」 黒い髪を揺らし、風が俺たちを包み込んでいく。 ふと、無意識に浮かび上がってきた映像を振り切り、俺は息を呑む。 君と初めて出会った日のこと、女の子にしては短い金髪を揺らし、悲しさを含んだ瞳。閉じられた細い唇。初対面の俺に向けた、悲しみを帯びた表情。 思い出して目を閉じる。今更、そんなことを思い出してなんの意味があるというのだ。 「ティティア……覚えているか?」 暗い海の白い砂浜で血にまみれて倒れていた一人の少女は反応を返さない。こちらの視線に答えることすらしない。 月は青い姿を変えようとしていた。月、本来の姿へと。 「ティティアが初めて、俺を信頼してくれた日の夜に見えた月と同じ月」 俺は静かに呟き、再び歩き出した。 青い月の灯りを背に感じながら……。君の小さな体を両手で包みながら。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加