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-奏side-
溶けてしまいそう。
‥それが俺が彼をここで見た最初の感想だった
白い部屋、白いベッド、
白い布団に白い枕
‥‥それらよりも白く儚い、彼の顔
このまま雪の様に溶けて消えるんじゃないかって、半ば本気で思った
ゆっくりと彼に、いや、
彼が寝ているベッドに近づく
あえてゆっくりなんじゃない。
‥脚が、身体が思う様に動かないんだ
「‥‥‥こ、さ‥」
‥掠れた、情けない声しか出ないんだ。
名前を呼びたい、
抱きしめたいのに、
‥そんなことすらもう赦されない。
嗚呼、
今日も彼はこのどこまでも白い部屋で
今にも消えそうに生きているのだろうか
‥誰のせいか、なんて痛いほどわかってる
‥代われるもんならあんたの代わりに俺が溶けんのに
それが出来ない自分が酷く無力で、惨めに思えた。
----past--
あの日、相澤さんからの電話を受けて、すぐに病院に行った。
いや、行かされたの方が正しいかも知れない。
相澤さんがすぐに車で迎えにきて、そのまま一緒に連れてってくれたらしい。
‥俺はただ、みっともなくがたがた震えていて、よく覚えていないのだが。
‥彼がいる手術室の前で
険しい顔をしたリーダーと、泣きそうな顔をした慧くんが現状を詳しく話してくれた。
だが俺に理解できたのは
[紅さんが事故にあった]
ことと
[今、手術してる]
こと
[助からないかもしれない]
ことの3つぐらいだ。
‥つまりなんにもわかっちゃいなかった。
ただ、リーダーが異常にしっかりしていて
あぁ、やっぱりこの人は凄いんだな なんてぼんやり思った記憶がある。
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