1人が本棚に入れています
本棚に追加
「叶不名誉事件」
相沢の眉間に寄ったシワがゆっくりと解け、その表情はみるみる悲しそうに歪んでいく。
それと同時に力の抜けた手から、叶のTシャツがほどけるように離れた。
相沢の後ろに座る二人の男達がゴクリと唾を飲み込む。
伏せた顔を上げ、互いに頷き合うと椅子の下へ降りて正座をした。
「あのっ……リーダー、相沢さんは悪くないんっス!」
「気づいた俺らが言うべ……」
言葉の途中で、相沢がスッと右手を横に広げた。
「俺が言う……」
小さく、けれど低く響く声で振り向かずに男達を制すると、相沢は叶を見つめる。
その目は先ほどとは違い、動揺の無い真っ直ぐな視線。
叶は大きく息を吸い込み、その視線に応えるように相沢を見つめた。
「兄貴……」
張り詰めた空気は流れている曲さえ掻き消すようで、みな一様に息を飲む。
「Tシャツが……前後どころか裏表も逆です!」
その声はあまりにも雄々しく、後に裏では“叶不名誉事件”としてひそやかに語り継がれた。
最初のコメントを投稿しよう!