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文久三年四月。
甘い香りと桃色の花びらを運ぶ風が辿り着いた先は
壬生浪士組
と、書かれた木の看板が壁に打ちつけられた屋敷。
その屋敷の門を恰幅の良い男ーー芹沢鴨(セリザワカモ)が潜れば、すぐさま人の気配がした。
芹沢が鉄で出来た扇で甘い香りをはたはたと叩いていれば、屋敷の中から人影がひとつ、飛び出してくる。
「芹沢先生!! おかえりなさい!!」
嬉しそうな表情を浮かべながら出て来たのは、日の当たり方次第では赤にも見える肩より下の髪を丁寧に結い、目は細く鋭いが、整った顔立ちの男。
新見錦(ニイミニシキ)
新見は砂利を踏みしめながら芹沢に駆け寄ると、芹沢に留守中は何もなかったと、そう伝えた。
その報告に芹沢はひとつ頷き、にやりと口端を上げて新見を見下ろす。
その笑みを見た新見は、長年の付き合いからか何かを察すると、嬉しそうな表情を固めてしまう。
芹沢先生のこの顔は俺をからかう時に見せる顔だ。
からかう……からかう……。
何を使ってからかってくるのかと思考していれば、芹沢の背後から小柄な影がひとつ、躍り出た。
「錦ー!! やっほ!!」
「またてめえかよぉぉぉ!!!?」
影の正体が何か分かった新見は嫌そうに声を荒げ、細い目を更に細くして顔をしかめた。
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