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「へぇ。暗くて幽霊が出そう、ねぇ」
「紺。幽霊は真でるものぞ」
閉じた鉄扇で肩を叩きながら、横に立つ女ーー紺(コン)を芹沢は見下ろすが、その口元には何かを含んだ笑みが浮かべてある。
「のう、新見。儂は蔵とは言ったが、新見には見えておるのだろう? 蔵に取り憑いた……あれの怨霊が」
「お、怨霊……?」
聞き返す新見の顔は鮮やかなぐらい真っ青だ。
つついてしまえば倒れてしまうのではないか。
「知らぬかったか? そうか。ならば教えてやろうぞ。
あの蔵には新見の斬ったとある浪士の」
「あああああ!? 俺大事な用がありました!! 平山の野郎に団子を買ってこねえといけねえんだった!!」
芹沢が始めようとした話を悲鳴に近い大声で遮った新見は、大袈裟に手を打つとさっさとその場から去ろうとする。
くるりと、芹沢達に背を向けるが、その襟を芹沢のがっちりとした手が掴み、新見はうっと詰まってしまう。
「団子を買いに行くのか。ならば紺も連れ行け」
「女を連れて行く理由が……見当たらねえのですが?」
「理由が必要か? 儂に理由を求める愚図な輩には……。
斬られた浪士は魂とだけになりさまよい、ついに新」
「行くぞ紺っ!! さっさとついてきやがれっ!!」
新見にとっては聞きたくない話を再び口にする芹沢をまたもや大声で遮る。
そして新見はずんずんと大股で歩き出すが……。
「そっち屋敷だけど~」
「…………」
新見の向かう先は団子屋のある外ではなく、屋敷だった。
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