一章

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笑いながら指摘する紺の声に新見は顔を真っ赤にさせながら振り返り、これまた大股で門をくぐって行ってしまう。 実のところ団子を買うなど頼まれてはいなかったが、芹沢の話を遮る嘘の口実でしかなかったが、ここまですれば後には引けず。 避けていた紺を連れて町に行くことになってしまった。 新見にとって災難でしかない時間が、今日も開始する。 「錦ー!! 早く歩かないと置いてくよー!!」 「呼び捨てすんな!! てめえは俺を誰だと思ってんだ!!」 「え? 錦じゃないの?」 昼間の京の街は沢山の人で通りが賑わう。 広い通りを歩く紺は後ろからトボトボといった様子で歩く新見を呼んだのだが、呼び方が気にいらなかった新見はくわりと吠えた。 目の細い新見が怒りの表情を見せるとなかなかの迫力があるのだが、紺はそれを気にも留めずに、更には怯えるなんて微塵もなく。 首を傾げて新見を見た。 首を傾げた際に高い位置で結った黒い髪が、さらりと揺れる。 紺は顔立ちの整った娘だ。 歳は十九。 くりっとした目に小さめの鼻、唇は桜色で薄く、綺麗というより可愛いといった言葉が似合う。 その顔が浮かべるのは無邪気な笑顔であり、そこが人を惹きつけそうなのだが……。 新見にとっては天の邪鬼な笑顔でしかない。
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