一章

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「いいか女!! 耳の穴かっぽじってよく聞け!! 俺は本来ならお前のような一介の女が口を聞けるような立場じゃねえんだ!! 何故なら!! 俺は局ちょ」 「錦ー!! 餡蜜食べていこー」 「餡蜜うまそうじゃねえか。……て、違ーう!! お前は人の話を最後まで聞きやがれ!!」 「おばちゃーん!! 餡蜜二つお願ーい!!」 新見の言葉を遮って、通りに建つ甘味処の外に設置された長椅子に座った紺は店員に声をかける。 つい紺の誘いにのってしまった新見はすぐさまつっこみはしたが、まるで自分の話を聞いていない紺に、新見は内心憤怒の声をあげていた。 ぬぅおおおおお!! と。 更には皮が剥けるのではないか、と強くガシガシと頭を掻きむしる新見に、足を揺らす紺は憂いを帯びた目を向けた。 「錦……ハゲるよ」 「誰のせいじゃぼけぇぇぇ!! てめえは……てめえは!!」 心配するような哀れむような、そんな呟きを漏らした紺に新見は怒りの形相で大股に詰め寄ると、紺を下から上へと睨みつける。 だがあまりの苛立ちのせいで次の言葉を吐き出させずに口をパクパクさせている新見は、滑稽だった。 「錦って毎日会っても飽きないよね」 首を傾げながらそう言う紺の笑顔はあまりにも無邪気で。 苛立ちと疲労しか与えない彼女なのに、新見はその笑顔に弱いらしく、口を開け閉めさせながら、ほんのりと頬を染めてしまった。
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