十三章

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あの後、店主の悲鳴を聞きつけて女中やらが沢山集まってきた。 部屋の中に入られる前に、新見は窓から店の外に逃げたのだが。 店主はもう、歩けないだろう。 刀を深々と刺し斬り動かした足の一本は、筋を斬られてもう歩くという行為は出来なくなった。 最悪出血多量で死んでしまうかもしれないが、女中達は医者を呼び寄せただろう。 まぁ、それを確認せずに店を飛び出したのだから、結局どうなったのかは分からないのだが。 まだ手に肉を断った感触の残る新見は、先程までの顔とは違い、幾分晴れた顔で通りを歩いていた。 新見が向かう先は蓮屋とは違う料亭であり、そこには待ち受けているものがあるのだが……。 「今日はいい天気だなぁ、紺」 見上げた空は雲一つない晴天。 どこまでも薄い青が広がった空を、新見は空同様穏やかな気持ちで見つめた。 蓮屋から解放した紺の魂は無事にこの空の上にと行けただろうか。 そこで、自分を見てくれているだろうか。 手を伸ばし、空の向こうにいるだろう愛おしい存在を想い、柔らかな微笑を浮かべて開いた手を握り閉じた。 「もうすぐ、そっちに行くからな」 もうすぐ会える。 会いたくて仕方ない。 会えたならもう二度と……。  
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