十三章

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今が鬼になる時だ。 土方は新見を睨みつけながら、懐から懐刀を取り出し新見の前に投げ寄越す。 足先に当たったそれを不敵な笑みをそのままにした新見は手にと持ち上げた。 「覚悟が決まったみてえだな、土方。新撰組はてめえに任せときゃぁ、安泰のようだ」 「たりめェよ。新撰組は潰させねェ。新見さんにはその礎になってもらうぜ」 「礎、ね。そんな大層なもんには成れねえが……好き勝手した俺が何か一つ役に立てたんなら、良しとすっか」 今まで正直、芹沢の役には立ってきただろうが組の為には役に立ってこなかった。 副長に降格されたのが分かり易い一つである。 役に立たないうえに最後の方には己の信念の為だけに動いていた自分が、先の新撰組の礎となるという。 勿体無い言葉だが、それが土方からの最後の慰めだと思うと、いいようのない救いを感じた。 新見は土方からの懐刀の柄を掴むと躊躇なく引き抜き、着ていた着物の左袖から腕を抜く。 そして、露わになった腹を手のひらでゆっくりと撫でた。 その時、だった。 「改めてくださいよ……」 今まで黙っていた沖田が口を開いたのは。 「今までを改めて!! 新撰組の為に働き生きて下さいよ!! 新見さんの法度に背いた理由は近藤さんも知っています!! 僕も頭下げますから、今回は」 「黙れ沖田ぁっ!!」 「っ!!」 口を開くなり懇願するが、その沖田を土方ではなく、新見が制した。
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