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赤い光景はいつまで続いただろうか。
目を逸らせずにいた光景はいつの間にか終わっており、気づけば恰幅の良い男が顔を覗き込んでいた。
「怪我はないか? ああ。女子(オナゴ)には酷だったな。今宵見たものは夢だと、そう思えばいい」
「芹沢先生。それじゃあ恩を売れませんって。夢なんかで終わらせたらいけません」
懐紙で刃についた血糊を拭き、刀を鞘に収めていれば、新見、と叱咤するように名前を呼ばれる。
名前を呼ばれただけで少々萎縮してしまうのは、芹沢先生と呼んだ男に尊敬や畏怖を抱いているからか。
新見は目を伏せながらガリガリと頭を掻いた。
「んだよ……。助け求めたのは女だろ。……ん? お前裸足じゃねえか」
口を押さえて未だ震える女が裸足なのに気づいた。
地面に転げていた提灯で足を照らし出せば、血が出ているではないか。
「手当てしよう」
それを見た芹沢と呼ばれた男は背後に立つ新見に目を向けると、新見は了承したように女の前に背中を向けてしゃがみ込んだ。
その意図が恐怖に支配された女には分からず、ただ呆然としていれば促される。
「早く乗れってんだ」
「…………え?」
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