~既望~

4/9
前へ
/9ページ
次へ
病室に戻る途中も彼はどうでもいいような世間話を「いかにも」楽しそうにべちゃくちゃと話していた。決して表情や仕草には現れていないが、必死なんだろう。そう思ったので私も真剣に話を聞いていた。病室に着き私をベットに寝せると彼は脈だけ簡単に計り、帰ろうとした。結局質問には答えずに・・・。「ねぇ」早く私から離れようと彼が必死なように、私も彼を繋ぎ止めようと必死だった。「あんな寒空の下で暇してんなら、私の話し相手になってよ」胸の高鳴りを隠すためにはこれが精一杯の言葉だった。「んー」と彼は悩むような素振りを見せたが、私が手を合わせお願いしてる姿を見て「わかったよ。暇だったら遊びにきますんで」と笑顔で答えてくれた。やっぱりこの笑顔は偽りなんだと私はわかっていた。彼が嫌がっていることも重々承知していた。それでも彼の隠れた部分が知りたくて、これが私の最期のわがままになるだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加