~既望~

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夢を見た。私はとっても元気で逆に彼がベットに横たわっていた。しかし彼の表情はとても穏やか。まるで在るべき場所にいるみたいに。死を受け入れている。いや、招き入れていると言ったほうが語弊がない。あの冷たい目は死を目前にしてやっと色を取り戻してるように思えた。私は彼に尋ねた。「死ぬの?」彼はあぁと穏やかに答えた。そして「元気になってよかった」と。 いつの間にか私は天井を見ていた。いつの間にか夢が終わりいつの間にか現実に戻っていた。確かにあれは夢で確かに今、私は現実にいる。しかし在るべき世界は本当に“ここ”なのだろうか。私が死んで彼が生きる。本当にそれが現実なのだろうか―。心が揺らぐ。静かな水面に落ちてきた石は大きな波を立てる。しかしその衝撃もいつかは必ず消え去りまた静かな時が戻ってくる。そのいつかを待つ時間など私にはないんだ。
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