ぼうふら

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 大学中退後からここに住み始めて、もう五年になる。夏暑く、冬寒く、ゴキブリが絶えず、壁が薄く、家賃が安い、大家は耄碌したババア。貧乏人にぴったりの物件であって、月十万ちょいという俺の所得面から考えてもまさに俺の為にあるようなアパートである。築四十五年、自分の親父よりも長生きしているのだと考えると感慨深いような気がするがそれは錯覚である。古さ余って憎さ三百倍。押し入れにキノコが生えた時は「松本零士と同じ体験をしている!」と一人興奮したが、吊るしっぱなしにしていたスーツがカビに彩りを加えられたのを見て一気に現実に引き戻された。
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