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「それにしても大将いいのか?こんなに立派な鯛はそうそう手に入らないだろう?」
「サービス、サービス。何十年もお付き合いのある佐久さんに為。家族みたいなものさ。」
ほんと、人の誕生日を。しかも、こんな独り身の親父のために。
「佐久さん、今日は誕生日なんですか?うそー、聞いていたら用意したのに。大将も言ってくれればいいのに。ほんと、水臭いんだから。」
この声、いつもオレより少し遅れてやってくる。包み込むような暖かい春の日差しの感じさせる、そんな声をしている。
「すまん、すまん。美保ちゃんに話すと、佐久さん照れるだろうしさ。でも、オレも悪いことしちゃったなぁ。」
少し、おせっかいなとこはあるが、この声は嫌いになれない。
「じゃあ、明日!佐久さん居ますよね?」
「決まってるよ。なんてったって佐久さんはこの店の看板親父だよ。」
「ん!」
ほんと、楽しいやつだ。調子よく酒までついでやがる。
「佐久さん、明日は楽しみにしていくださいね。明日は私からのプレゼントあるからね。さぁさぁ、飲みましょう。飲みましょう。」
この子はいつもこの調子。しかし、根はとても優しく、しっかりと芯のある子。絶対に仕事の愚痴はこぼさない。人の陰口を言わない。ウソを言わない。まるで酒好きのほとけだな。美保ちゃんとは家が近くのせいか、いつも途中まで一緒に帰る。線香公園の交差点まで。そして、あの子が家に着くとメールが届く。
「おやすみなさい」と。
オレにも見るくらいはできるさ。
今まで使ったことのない機能だったが。オレの場合、仕事の電話なのだ。
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