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ローンはうろたえていたが、俺には十分過ぎる言葉を返した。
「僕、人間を好きになるって解らない」
解らない。
そうか。
解らないものって、……恐いよな。
俺は、お前が恐い。
お前は、人間全部が恐いのかな。
「……分かった、ごめん」
俺は手を離した。
俺らは無言の中、地下鉄に乗った。アパートへ帰る為に。
地下鉄の中には人が沢山居る。
白いタンクトップに濃い色のジーンズを穿いた、長い黒髪の若い女の人。気難しそうな、眼鏡を掛けた金髪の細身のおじさん。その奥さんと思われる、笑顔が感じのいい太った巻き髪のおばさん。
ローンと俺は、19歳の若い男だ。二人とも背は同じくらい高い。ローンが茶髪、俺が金髪。俺の髪はゆるくカールしていて、ローンはストレートだ。
ローンが俯くと、白い肌のほっそりした顔の半分が前髪で隠れ、赤い唇が目立つ。睫毛が長く、鼻は細くそんなに高くない。
半袖のTシャツから剥き出しになった首元や腕は白く細く、どこかにぶつけたような痣が痛々しい。
Tシャツやジーンズは緩み襞(ひだ)を作り、ローンの体が痩せていることをありありと示している。
俺はそのローンの衣服の部分を見てさえ、胸が締め付けられる想いを味わった。
もし俺が、女だったら、もっと解り合えずに、切なくなったかもしれない。
ローンはそういう、人を哀しくさせる男だ。
「タッド」
アパートのドアの前で、ローンが言葉を発した。
「タッドは僕の、傍に居てくれる?」
ぐん、と心が掴まれたような気がした。
ローンは、孤独なんだ。
そう思うと、何故かやたら嬉しかった。
「……ああ」
もう、解んねえ。
俺はローンを抱きしめた。
「あっ、ははは、どうしたのタッド」
お前も何で笑い出すんだ。
「好きだ、ローン」
俺も笑って言った。
部屋の中にはあの薔薇が居る。
彼女にバレないように、俺はローンの体温を、しっかりと記憶に留めておいた。
いつか、俺の絵を描いてもらおう。
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