薔薇と少年

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「お前、老けたな」 「んっ」 俺が言うと、ローンは飲んでいたオレンジ味の炭酸飲料を危うく吹き出しそうになっていた。 「嘘でしょ?19でそんなこと言われちゃうの?」 俺を見て、笑ってそう訴えるローン。他人に対して常に穏やかなのが、こいつの良いところだ。 「いや、一年で見た目が大分変わったなと思って」 何ていうか、ちょっとくたびれたと思う。 ハイスクール時代は、女の子と見間違わんばかりの甘い顔と雰囲気だったんだが。卒業して一年経ち、今は等身大の男というか、ちょっとアクが出て来たというか……。 長めだった髪もずっと切っておらず、今ではもう余裕で後ろでひとつに結べるくらいだ。 「オシャレに気を遣わなくなったから?」 自分の着ているTシャツとジーンズを見て、ローンはそう零した。 Tシャツは絵の具であちこちが汚れていた。ローンは絵を描くのが好きだ。 「俺としか居ないからじゃねえ?ラクしすぎなんだよ。女の子連れて来いって、俺は他んとこに泊まるから」 俺がこんなことを言うのはこれで何度目だろう。ローンはこういう話題では、決まって苦笑いをする。 俺が、ローンが女を好きじゃないんじゃないかと疑い始めたのは、俺とローンが初めて同じ部屋になった16の頃だった。 その頃はまだ二人部屋ではなく、俺達は同級生の他の二人と一緒に四人部屋に入れられていた。 「ローンはどういう娘が好き?」 同級生のそんな質問に対し、ローンはいつも、 「優しい娘」 とだけ答えていた。 その答えを何度か聞いていると、何だかローンが義務的に答えているようで、『こいつムリにそう言ってるんじゃないか?』という気がしてきた。 恋愛の話が苦手なのかな、と思った。 というか俺から見ると、ローンの色気のなさはまるで、『子供』そのものだった。 誰に対しても態度が変わらず、にこやかに話せる。『純粋』。恋愛対象ではなく、誰のことも人として好きになる。……そんなイメージを持っていた。 あれは、春にあった寮のフェスティバルの時のことだ。
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