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ステージで全ての出し物が終わり、俺は音響の道具を片付けていた。ずっと一緒に居たローンがどこかに行ってしまったことに、腹を立てながら。
他のやつと別の出し物を見に行ったのかな、と思っていた。
しかし1番重い照明を片付けている時、ローンの姿がステージの袖のさらに奥のカーテンの隙間から見えた。
「ロー……」
俺は名前を呼ぼうとして、息を呑んだ。
ローンは、ステージで使った大量の花達に囲まれて眠っていた。
「タッド」
今、俺と一緒に居る19歳のローンは、あの頃の危うさをよりあからさまにした感じとも言える。
「タッド、この薔薇には水は遣らなくていいよ」
俺達のアパートには、花が沢山ある。
「僕の薔薇だから」
お前の机に一輪だけある、この紅い薔薇は何なんだ?
お前の恋人なのか?
「星の王子さまみたいだ」
うっとりとそう言いやがったのは、フォーカス先生。オリバー・フォーカス……俺らのハイスクール時代の歴史の先生だ。
「そういう言い方だとまだ可愛いですけど」
俺は苦笑した。
ここは、古びた英国式パブ。元々はハイスクール時代の友人が通っていたところなのだが、今は俺らの仲間内ではローンが1番頻繁に来ているようだった。
俺も今日は何となくぶらっと寄ってみたのだが、まさか昔の恩師に会うとは思ってもいなかった。
そして自然と話題は、俺がローンと一緒に住んでいることになり、最近のローンの話になり、ローンの趣味になり……という感じである。
「今日はそのローンは来ないのか?」
トン!と小さなサラダボウルを二つ出すマスター。
「俺だけじゃダメなの?」
俺はニッコリ笑ってそう返した。
50歳は過ぎていると思われるこのマスターの人柄の良さが、ローンが通う理由だと思っているのだが。
このパブにそぐわない、派手派手しい薔薇や百合やかすみ草が活けてある大きな丸い花瓶が目の端に映り、俺は少しだけ心が苛立った。
「そういやこの花どうしたの?」
フォーカス先生も気になっていたのかマスターにそう尋ねた。
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