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ローンは、すやすやと安らかな寝息を立てていた。今日は土曜日。俺もローンも大学の授業はとっていない。
俺はベッドに近付き、膝を床に付いてローンの顔を覗き込んだ。
ベッドの傍の机には、一輪の薔薇が静かに佇んでいる。
俺の知る限りでは、ローンが、人間をモデルに絵を描いたことなんてない。
「……どうやって、花相手に」
ギクリとした。俺は思わず声にはっきりと出していたようだった。
「……?タッド……?」
ローンは目を覚まし、体を起こした。思わず俺も体を後ろに引いた。
「悪ぃ!起こした」
そう言いつつも俺は、ローンの背中を軽くバシバシと叩いた。
寝起きでキョトンとしたローンの表情は幼く、それが俺だけに向けられているのは、愛しく思えた。
互いに何の予定も無い休日は久しぶりだったので、俺達は朝食を済ませると、二人で気になっていた映画を観に行くことにした。
最近話題の若い俳優が主演の、バタバタしたアクションものだと思っていたのだが。
実際は、主役がヒロインをひたすら何年も想い続けるという、恋愛の要素が強い話だった。
(……何だかな)
俺の気分が落ち込み気味なのは、季節が秋になろうとしているからだろうか。
俺は映画館から出て、食べ残しのポップコーンを捨てようとしていた。
「好きだ」
ローンが急にそう言ったので、俺は振り向いた。
「好きだ、エリザベート」
映画の台詞だ。
確かめるように言葉にするローン。
「……よかったな。ずっと、想い続けるのって」
俺は、別に自分がそれほどに苛立っているとか、切羽詰まっているわけではなかったと思う。
そう、だから多分、何となくだ。何となく、ローンの言葉がカンに触ったから。
俺は両手でローンの両手首を掴み、映画館の壁に軽く押し倒した。
「つ!」
急な俺の行動に、痛がるように目をつぶるローン。
「……なあ、お前、どうしてだ?」
俺の声は落ち着いていた。
「お前、ちゃんと女の人愛せるのか?」
……いや、頭の中は落ち着いてないな。
本当に聞きたかったのは、多分こんなことじゃなかった。
それでも、俺がローンに凄くしたくなかった質問の内のひとつをしてしまった。
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