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ゴウゴウと吹き荒れる台風の音で目を覚ました。
梅雨明け前に台風か‥‥
嫌でもため息が落ちる。
が、台風一過の青空に期待して
俺は重い足を引き摺りながらベッドから抜け出した。
しかし。
‥‥居ない。沙織がいない。
出てけと言ったから出ていった‥‥訳ではないようで、沙織の私物が詰められたと思われる段ボールが廊下に出しっぱなしだ。
期待してた朝食もなく、食堂もシン…と静まり返っている。
一体どこへ‥‥?
「‥‥‥‥‥っ!!!!」
不意に窓の外へ視線を向けた時、俺は言葉を失った。
窓の向こうに、沙織の姿を見つけたからだ。
「おい、ちょっ‥‥何やってるの!?」
窓から勢い良く飛び出したが、台風で体が押し返され、改めて外の台風の凄まじさを感じた。
俺は沙織の元へ駆け寄り腕を牽いた。
が、すぐに振り払われてしまう。
心配してやってるのに‥‥!
「だから!こんな雨の中、何やってんだって聞いてんだよ!!」
「‥‥ひ‥‥ひまわりが‥‥」
風の音に掻き消されながら、沙織のか細い声が耳に届いた。
良く見ると、沙織の手にはビニールシート。
向日葵が咲き誇る花壇の周りには、シートを被せる予定で突き立てたと思われる竿が、等間隔に並んでいた。
「‥‥これを、被せるのか?」
沙織はぐしょ濡れになった姿で力強く頷いた。
「‥‥ったく、分かったからちょっと貸して」
俺は沙織からビニールを奪うように受け取ると、竿に渡してゆく。
沙織より高い身長と、男特有の腕力で、彼女よりは手際よく出来たと思う。
最後にビニールへ重石を乗せ、顔を上げると
部屋へ入らず心配そうに見つめていた沙織がにっこりと微笑んだ。
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