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部屋に戻った俺は、沙織が用意してくれたタオルで体を拭いた。
「ありがとうございました。私一人ではどうにも上手くいかなくて‥‥」
「別にいいけどさ‥‥何も無理してやる必要もないんじゃないか?」
沙織はまた寂しそうに、遠くを見つめるように
窓の外の向日葵畑へと目を向けた。
「‥‥あの向日葵は、貴司さんが植えた向日葵なんです」
「えっ!?」
「だから台風が来る時には、こうやって守ってたんですよ。
もう、見て貰う事は叶いませんけど‥‥」
俺も返す言葉を失い、沙織と同じように向日葵を見つめた。
「‥‥あ。風邪をひかれたら大変ですね。今、お風呂沸かして来ますから」
俺の返事も待たず、沙織はスリッパの音を鳴らしながら長い廊下の奥へと消えていった。
それから。
半ば無理矢理お風呂へ促された俺は、シャワーを浴びて食堂へと戻った。
そこには胃袋を刺激する良い匂いをさせたビーフシチューが並んでいた。
「体は温まりましたか?」
沙織は可愛らしい鍋掴みでシチューの入った鍋をテーブルへ置くと、俺の前にサラダや珈琲を並べてくれた。‥‥だけど。
「‥‥ああ。俺はもう大丈夫だから、沙織さんもシャワー浴びて来たら?」
俺の世話ばかりして、濡れたままエプロンを着けていた沙織に、お風呂へ入るよう促した。
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