薫る時

その日。

世間は暖かな陽気に満ちていた。

庭では、色とりどりの花が日の光をあびて可憐に咲いている。

山ではたくさんの小さな可愛らしい滝が流れ、雪と雨が小川になって、冬の恐ろしさは春の優美さに代わり、何もかもが気持ち良さそうに飛びはねていることだろう。

そして恋が、若者の春が、心のなかで歌い、輝き、花咲く。

そんな春うららな日。

ご主人様が死んだ。

沈丁花の香りに包まれて、彼はその短い生涯を終えたのだ。

私は慈雨。

彼の犬であった。