鬼哭く夜に降り立ちぬ

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  よろめき、その場に倒れ込む憑鬼。 「安心して下さい。憑鬼は私が葬りましたから……」 肩口から流れ出る血を押さえながら座り込んだ香取に向かって、もう一体の異形が放つ声は、自分の知る聞き慣れた声であった。 「まさ……き? 真崎なのか?」 「先輩には……見られたくなかったんですけどね」 虎のような眼を香取に向けた真崎は、寂しそうに笑う。 「お前……その姿はまるで……」 鬼。 まさに、赤鬼と呼ぶに相応しい姿だと香取は思った。 「私は真崎一族……禍なる鬼を滅すべくして存在する鬼の一族なんです。ごめんなさい、先輩。騙すつもりなんてなかった」 「う……あ……」 かける言葉が見つからず、ただ茫然自失とする香取のすぐ脇で、倒れていた恵が意識を取り戻す。 「生きているのか!?」 見れば恵の身体は元通りとなり、首や胸の傷も綺麗に無くなっていた。 「真崎が滅するのは、鬼の思念。依り代である恵さんは無傷ですよ……更に、家族をその手にかけた記憶は消えます。自分ではない『鬼』の仕業として記憶に残るんです。 それだけが、彼女にとっての救いかも知れませんね」 気が付けば真崎の姿もまた、元の人間の姿に戻っていた。 「じゃあ、先輩。恵さんをお願いします。今回の事、全部記事にして構いませんから。それと……『真鬼』の事について、知りたい事とか有りますか?」 シャツが破けてあらわになった恵の胸元に、身を屈めて自分のジャケットを被せた真崎は香取に向き直り、そう言った。 「どういう意味だ……それは」 ボソリと呟く香取に、真崎は淡々とした口調で答える。 「本当の事を書いても構いませんし、大袈裟に書いてもいいです。憑鬼程度の鬼なら人の姿のまま葬れると思ったんですけどね……仕方が無かった。 どのみち先輩に見られたからには、もう会社には戻れません……でも……」 一瞬、切な気に言い淀む真崎。 「でも、先輩……私! 私、本当は先輩なら……」 香取を見つめる真崎の眼差しは、僅かに潤んでいた。
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