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一瞬、懇願するような眼差しで香取を見つめた真崎だったが、すぐに視線を逸らして立ち上がり背を向ける。
「いえ……何でも。何でもないです。あの……お酒、あまり飲み過ぎないで下さいね。
お元気で……さようなら……」
そう言って立ち去ろうとする真崎にすかさず声をかける香取。
「あ~あ! 結局、今回も空振りだったな、帰ったら編集長にどやされるぞ。
ま、いつもの事だがな」
「え?」
歩きかけた真崎は、立ち止まって困惑した顔で振り返る。
「写真は偽物だったし、帰りの弁当は無しだな? 真崎」
「先輩、それって……?」
フッと優しい笑みを溢す香取。
「今回の事は腹に呑んどく。それに、俺の助手はお前しかいないだろ? これから先も、ずっとな」
「でも……でも、私は普通の人間じゃ……」
歩み寄った香取の唇が、何かを言いかけた真崎の唇を塞ぐ。
「麗奈……お前の事が好きだ。いや……ずっと前から好きだった。どんな姿だろうとその気持ちに変わりはない」
「先輩……私も前から先輩の事が……でも、いいんですか? 私と一緒にいたら、今日みたいに命に関わる事だって……私だってずっと一緒にいたい! でも……」
麗奈の頬を一筋の涙が伝う。
「平気だ。それに、退屈しなそうじゃねぇか」
香取はそう言って真崎を抱き寄せた。
――それから数ヶ月。
まだ薄紫色の街の一角。
とあるアパートのドアが勢いよく開かれた。
「先輩! 新潟の農村に食人鬼が現れたそうです!」
「だから、勝手に入ってくんなって……で? ズバリ今回のネタはどうなんだ?」
「かなりの確率でクロです。何なら私一人で……」
「怒るぜ? 麗奈」
香取はトレンチコートを羽織ると、麗奈の額に軽くキスをする。
「もう……わかりましたよ。まぁ、イザとなったら私が明人さんの事守りますから」
香取は愛でるような眼差しで、麗奈の頭をクシャッと撫でた。
「よっしゃ! 編集長に掛け合ってくるわ!」
そう叫ぶや否や、香取の姿は朝焼けの街へと消えて行った。
「あなたは私が守るわ……どんな事があっても、必ず……」
鬼である事を知った上で、自分を受け入れてくれた香取の背中にそっと呟く麗奈だった。
~完~
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