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普段、放送局の撮影者として過ごす自分は、激務に反する少ない収入で、何とか家族を養っている。
そんな自分から見れば、それは誰もが羨む話だ。
誰もが、そんな道に乗りたがる。
そんな道を、敷きたがる。
しかし、彼女はそうじゃないというのか?
「刺激という刺激は、9歳までに受け飽きたわ。戦争も平和も酢いも甘いも経験してきた。
10年前、日本が帝国主義を取り戻した時、人生で初めて興奮したの。未知と未経験が溢れると思ったわ。言うなれば、明治文学者の気分よね」
「――……」
「あらゆる思想、あらゆる運動に巻き込まれ、それでも己を貫いた彼らのようになりたいと思ったわ。
けれど、2ヶ月で世界は変わらないと知った。
そんな中で唯一残された刺激は、人を殺すことと自分が死ぬこと。国家転覆なんてただのおまけね。
苛めて嬲って虐げて、徹底的に殺し尽くす。どんな気分なのかしらね」
楽しみだわ。
圧倒的な才能。究極的な天才。世の中の全てを経験しきった彼女に残されたのは、禁忌を犯すことだけ。
礼太は気付く。
「君は、どうしてそんなに刺激を求めるんだ?」
すると、紗音は楽しげに笑みを浮かべた。
強く強く、心底嬉しそうに。
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