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「進化するためよ」
「進、化……?」
「そう。人間だったら誰でも求めているわ。未知への恐怖と好奇心。既知への飽きと怠慢。人間は一定を嫌うわ。それは誰でも一緒。人間としての本能よ。
新しいこと。経験したことのないこと。あくなき探求。止まる事なき――……進化。
あなたも、同じことの繰り返しやパターン、マンネリは嫌いでしょう?
本能なのよ。求めざるを得ないの。それを実現する力が、私は人より強いだけ」
「殺しは禁忌だぞ」
「もうそれしか、これ以上の進化に至る道は残ってないのよ。あなたには解らないでしょうけどね。目的に対して、ありとあらゆる手段を失った人間の気持ちなんて」
「それをしないという選択はないのか」
「無いわね」
「どうして」
「停滞は進化を生まない。才能を持ち腐れにするだけ。進化なくして、私という存在は成立し得ない」
「それが例え、国家に反逆することになっても、か?」
すると、紗音はため息をつき、静かに言葉を引用した。
「『新しいことは謀叛である』」
「―……徳冨蘆花、か?」
「そう。彼は『謀叛論』で言ったわ」
謀叛を恐れてはならぬ。
謀叛人を恐れてはならぬ。
自ら謀叛人になることを恐れてはならぬ。
我々は生きねばならぬ。
生きる為に常に謀叛しなければならぬ。
自己に對して、また周囲に對して。
「謀叛というのは比喩よね。森鴎外が『学問は因襲を破って進んでいく』と言ったように、社会への反逆は時として、新たな進化を生むための手段となる。
私の謀叛は、進化すること。いえ、進化すること自体が謀叛になってしまうのよね。
停滞は、怠惰と退化を産む。過剰な反復は、飽和と限界を産む。
進むしかないのよ。進んで、掴むしかない」
「―……何を?」
「未来をよ。新たな未来を掴むには、常に進化し続けるしかない。謀叛し続けるしかない。私はその手段がたまたま、殺人と自らの死だという、ただそれだけ」
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