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――東京・渋谷――
夕日が沈み、空が青から黒へと変わっていく頃。
平日にも関わらず人で溢れかえった街には、たくさんの若者が行き来していた。
「ノゾミ」
携帯に届いたメールを確認していた女性に、1人の男性が声をかけた。
「タケル。今日はちゃんと時間通りに来たね」
「当たり前だっつーの。今日はノゾミの誕生日だろ?遅刻なんかできねーよ」
「おー?言うじゃん」
誇らしげに話す男性と嬉しそうに笑う女性。
タケルとノゾミは付き合いだして7ヶ月ほど経つ大学生カップルだ。
この日はノゾミが21歳の誕生日を迎えたということもあり、タケルがお祝いをしてくれるという。
「よし、じゃあ行こうぜ。店予約してるからさ」
タケルはニコッと微笑むと、ノゾミを連れて歩きだした。
「すみませ~ん!ちょっとよろしいですか?」
ふと、2人の前に数人の人が立ちはだかった。
マイクを持った女性に、カメラを持った男性。
そしてその男性を補佐しているもう1人の男性。
見た感じ、これはテレビの街頭インタビューだろう。
「な、何すか?」
「突然すみません。先程都内で新型悪性ウィルス『鬼化ウィルス』による国内10人目の死者が出たという報道がありまして、一言インタビューさせて頂けないかなと思いまして」
「し、死者!?」
ノゾミの表情が曇る。
「ええ、先程速報で。何でも21歳になったばかりで…やっぱり女性の方だそうです」
ますます表情を曇らせるノゾミ。
それを見たタケルが、マイクを持った女性を睨みつけた。
「おい!そんなくだらねえ話なら他に行けよ!」
「え?」
そう言うとタケルはノゾミの手を引き、インタビュアーたちから逃げるように走り去った。
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